日本酒の生酛(きもと)や山廃(やまはい)とは?二つの違いは?

日本酒の生酛(きもと)や山廃(やまはい)とは?二つの違いは?

日本酒が好きで様々な種類を飲み比べている人は、日本酒のラベルに「生酛(きもと)」「山廃(やまはい)」と書かれているのを一度は見たことがあるのではないでしょうか。

この「生酛(きもと)」「山廃(やまはい)」というのは日本酒の製造方法を表す言葉です。そして2つの製法は似ているため、違いがわからなかったり混乱してしまうことも。

今回はそれぞれの製法について、また生酛と山廃の違いについてご紹介します。

生酛と山廃は酛(もと)の製造方法

生酛造りと山廃造りの違いに入る前に、まずは日本酒に欠かせない酒母について説明します。

日本酒の造り方は大きく分けて「麹(こうじ)づくり」「酛(もと)づくり」「醪(もろみ)づくり」の3つに分けられ、生酛も山廃も「酛(もと)づくり」に含まれます。

「生酛」と「山廃」は、この酛づくりの方法の違いを表す言葉なのです。

日本酒の酛(酒母)に欠かせない乳酸菌

日本酒に不可欠な酛(もと)は酒母とも呼ばれ、日本酒の原型である「醪(もろみ)」のベースになるものです。
酒母は蒸した米や麹米、水、酵母を混ぜ、アルコール発酵に必要な酵母菌(イースト)を育てたものを指します。このとき、空気中からいろいろな微生物(お酒にとっては雑菌となるもの)が入ってしまうために元気な酵母菌を増やす妨げとなるのです。

美味しい日本酒をつくるためには、余計な雑菌の繁殖を抑えて優良なお酒の酵母だけを増やしたい、そこで強い味方になるのが「乳酸」です。

この乳酸を一から手づくりしたものを「生酛(きもと)」といい、流通している人工の乳酸を「速醸酛(そくじょうもと)」といいます。
そして、生酛よりも工程が改良された製造方法が山廃酛です。

生酛(きもと)とは

今でこそ人工的につくられた乳酸菌が手に入りますが、以前は乳酸も手づくりをしなければいけませんでした。

生酛造りは江戸時代のはじめ(17世紀の後半)に確立された醸造方法で長い歴史がある製造方法です。

空気中や壁の蔵、天井など自然界に存在する乳酸菌を取り込むために米や米麹をすり潰し、ドロドロに溶かすことで乳酸菌が繁殖しやすい環境を作っていました。
米をすり潰す作業は「山卸(やまおろし)」、もしくは、「酛すり」と呼ばれ、今でも大勢で行う重労働です。

乳酸菌を一から培養するには時間が掛かり、速醸酛を使用した場合酒母は約2週間でできあがるのに対し、生酛を使う場合は約1ヶ月も掛かります。

生酛造りは時間も手間も掛かる伝統的な酒造り製法ということがわかります。

山廃(やまはい)とは

山廃により造られた酛は「山卸廃止酛」とも呼ばれ、山卸しをせずに乳酸菌を培養し日本酒を造る製法を山廃といいます。

米をすり潰さなくても、蒸し米を投入する前に先に水の中で麹の酵素を溶かして置く(水麹と呼ばれています)ことで乳酸菌を培養する。
つまり、材料の投入順序を変えることで同じ様に酒を造ることが可能なことが明治期後半になってから分かりました。卸しを止した製法のため山廃と呼ばれています。

山卸しは重労働なうえに熟練の技術が必要なため、誰でもできものではありません。
そんななか、山卸しをしなくても酵素が米を溶かすことが分かったため「山廃仕込み」も製法の一つとして広まったのです。

生酛、山廃酛で造られたお酒は「生酛系酒母」として人気

お酒の酛は「生酛」「速醸酛」「山廃酛」の3種類があり、このうち「速醸酛」と「生酛・山廃酛」の2つで分けられることが多く、生酛・山廃酛も「生酛系酒母」としてまとめられています。

生酛や山廃酛によって造られたお酒は深みのある味わいとコクが魅力です。
また手造りの酒母から育った酵母菌は生命力が強く長生きといわれています。そのため酒造りの工程の発酵でも最後まで生き残り、余分な糖分を残さずスッキリとしたキレの良さも併せ持つ、お米の旨みを最大限に引き出す製法ではないでしょうか。

酛(酒母)はお酒の味を左右する三大要素の一つ

日本酒は実に多様な工程が重なり造られています。
酒造工程の大切さを順に表した格言「一麹(いちこうじ)、二酛(にもと)、三造り(さんつくり)」でもあるように、酒母はお酒の味を左右する大切な要素です。

日本酒を飲む際に、生酛や山廃のお酒を今一度味わってみると、これまでより印象が変わるかもしれません。

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